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怪しい奥様
〈谷口家 葬式会場〉
「…誰か、人と一緒に居るより一人で先行きの分からない文字を目で追ってる方が好きな子だったわ」
自宅の縁側。げっそり疲れ切った顔で家の柱にもたれかかるように座っていた 谷口ゆう子 は膝上に置いてた一冊の絵本の表紙を指先で優しく撫でた。
「とても優しい子だった。なのにどうして…?あの子の居ない世界で私はこれから何のために生きていけば良いの?」
両手で顔を覆って泣き出したゆう子を側に居た友人達が慰め始めた。
「ゆう子ちゃん…」と萩野の妻でゆう子と同じ小学校だった夕美もまた ゆう子の肩を抱いて一緒に涙を流していた。
その様子を少し離れた場所から萩野の息子・禄助が静かに眺めていた。父親である萩野が仕事で夕実と一緒に行けなくなったので父親の代理で一緒に来ていたのだ。
葬式が開かれたのは近い日にゆう子の娘、加奈子が突然亡くなったからだった。今日はそれで友人から誰からとたくさんの人が谷口家に集まって来ていた。
「加奈子ちゃん、とっても可愛い子だったのにねぇ」
「どうしてまた急に…」
「まだ高校生だしなぁ…誰にも相談出来ない悩みなんかが色々あったんだろうさ」
近くで聞こえてくる大人達のヒソヒソ話しに 聞いてらんねぇ と思って禄助は背を向けると大広間を立ち去った。廊下を出るとすぐに「分からんものだな」と声をかけられた。
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