怪しい奥様

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たまたま夕実と同じ職場繋がりと言うのがあって母親の付き添いで親友の恩庄(おんじょう)李兎(りと)も葬式に来ていたのだ。 相変わらず李兎は笑顔だ。だが別に彼は加奈子が亡くなって喜んでいるのではなく生まれつきそう言う顔をしているだけなので勘違いしないでもらえると助かる。 「よ〜ぅ」と禄助は振り向いた。 声だけで李兎だと分かったのはそれだけ長い付き合いだから…。 二人は隣並んで広い廊下をゆっくり歩き出した。 「俺は毎日どんな事が我が身に起こっても明日への鍛錬だと思い感謝しながら生きている。死だけは選ぼうとは思わんよ」 「全員が全員 俺達みたいに強いわけじゃない」 「“ありがとう”とはよく言えたものだよ。そう思わんかね、禄助?」 禄助の眉間がピクッと動いた。 「ふふっ。怒ったかね?だがどうか怒らないでくれたまえよ。お前ならば意味を理解してくれるだろうと思い言ったのだ。……他の人には言えないよ」 十五年以上の付き合い。李兎の気持ちが分かってないわけじゃないし、むしろどっちかと言えば自分だって李兎側の意見なのは確か。禄助は何も言わずに小さくため息ついた。 それを見下ろして李兎は猫のように三日月型に目を細めた。
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