萩野禄助の事件記録〜貴方しか愛せない〜

足音

『人と言う生き物は疲れきってる時に誰かに優しくされると思わずすがりたくなってしまうもんです。貴方にとって、いや他の人から見て　そんな事くらい　と言うものはそう言う人から見たら　とても暖かな春の日差しそのものに見えるもんなんですよ。不思議な事にな』

『じゃあ僕の傘があの子には桜の花に見えていたのかな？』

坂城は空を見上げた。

『……ねぇ坂城先生、私ね　ーーー　なの。私何もしてあげられなかった…本当に何も出来ない役立たずだわ』

ふとその時　自分が教師をしていた頃　受け持ったクラスの生徒の一人である加奈子から放課後になるとよく相談されていた　とある話しを思い出した。

もしあの時　教師として自分が何か彼女の助けになれる事をひとつでも出来ていたら彼女は帰らぬ人になったりはしなかったのだろうか？

今更そんな事を考えて後悔していると「パパ見て！」と元気な声が聞こえてきて　はっ　とした。

茶の間の炬燵に入って窓の外で雪が降っているのを眺めていた坂城に　那緒がクレヨンで汚れた手で掴んだ画用紙を　ばっ　と見せた。

「おっ、何を描いたのかな？」

「パパと僕とママ！」

「！」坂城は目を丸くした。

「あのねぇ、三人でピザまん食べてるの！これがパパでね、ママが一番いっぱいピザまん食べてるの！ママご飯食べるの好きだもんね！えへへへへ〜」

思わず泣きそうになった。坂城はズルズルッと鼻水を啜ると　ふにゃっ　と笑った那緒を両手いっぱいに優しく抱きしめた。