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後編
「だから、証拠は挙がってるんだよ!」
「私は成彰を殺してなんかいません! さっき成彰を亡くしたばかりなんですよ!? 何でこんな酷い事をするんですか!?」
深夜の取調室で、私はふたりの警察官の尋問を受けている。他に、書記係の人間も同席している。
「ご主人の体内のナトリウム濃度の異常な高さは、血液と尿の検査で明らかになっている。医師の見立てによると、長期間高濃度の塩分による食事を摂った兆候も見られるようだ。奥さん、あなたご主人の食事に山の様に塩分を盛りましたね?」
私はその疑いを鼻でせせら笑った。
「はっ。そんな証拠がどこにあるっていうのよ!? 私が主人の食事に山の様な塩を盛った証拠を見せてちょうだい!」
腕と足を組んで警察官を威嚇する。私のやった事は完全犯罪よ。絶対にバレやしない。
「証拠ね……。なら、これを見てもらおうか」
「!?」
出されたのは、成彰の日記帳だった。
「ご主人は、会社で倒れた際にとっさにこの日記帳を同僚に渡したそうです。その中身を見た同僚は愕然としたそうです。だって、中には『ここ最近妻の作る料理ややけにしょっぱい』と毎日のように書き記してあったのだから。それもここ最近の話じゃない。一年も前からだ」
私の背中を冷たい汗が流れる。私はそれでも虚勢を張り続けた。
「それだけで私を殺人者に出来るとでも?」
「まぁまぁ、この部分を良く読んで下さいよ」
警察が指で示した箇所には、とんでもない記述があった。
『今日、妻から保険の見直しをしたいと連絡があった。俺には一億円の保険金が掛けられた。子供もいないのにこんな高額な保険金を掛ける意味が分からない。それに、あいつは最近化粧が濃くなったし夜の外出も増えた。きっと浮気をしているに違いない。そうだ。それを全て含めて考えれば、俺はきっと殺される』
「ご主人は自分が殺されると予期しておられた。だから、あなたには内緒で保険金の受取人はご両親に変更したそうですよ?」
「あの野郎!」
私の怒りが火山の噴火のように燃え滾った。
何のためにこの一年間あいつに塩を盛り続けたと思うのか。全てはあいつを殺して一億円を手に入れて彼と楽しく暮らすためだったのに!
「それにあなた、馴染みのホストとのピロートークでこの計画の事を話していますね? そのホストが証言してくれましたよ」
「!!??」
ああ、ツイてない。あんな退屈な男と結婚したのもツイてないし、彼に迂闊にこの計画の事を話したのもツイてなかった。
「これから時間は山の様にある。お話、たっぷりお伺いさせて頂きますよ?」
刑事がニヤリと笑う。
ああ……本当に、ツイてない……。
────了
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