第三話

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 絶対に社交辞令のはずなのに、どこか嘘に感じ取れないその仕草。(まぁ、勘違いだろうけど)  そして、いつの間にか呼び名が『吉本君』から『奏君』へ移行している事への違和感。  転校初日で会話もろくに交わしていないにも関わらず、さらには自己紹介すらしていない中で何故、僕の下の名前を知っているのだろうか? 「何で僕の名前を……」  その疑問について投げ掛けようとするも、 「――というわけだから、よろしくね!」  と、彼女の言葉の方が寸分早く、こちらを振り向き、天使のような笑みを作って見せた。  その親しみの籠った可愛すぎる笑顔は、たった今僕が抱いた疑念を霧散させる程の威力を持っていた。  ただただ見惚れ、言葉を失う僕へ、彼女はさらに続ける。 「……とは言いつつも……まぁ、そうだよね。緊張するよね。 無理もないかぁ――だって私は確かに、可愛いもんね!(てへぺろ)」  と、言葉の前半部分は「うんうん」と頷くように言い、最後のところではニコっと悪戯的な笑みを作ると自信満々にそう言い放った。  まさかの自画自賛か、と思ったが、よく見ると彼女の浮かべたその悪戯的笑みはどこかぎこちなく、微かに羞恥心のようなものが窺えた。  おそらくは僕から掛けられる畏敬の念を彼女なりに何とか和らげようと気を効かせた冗談のつもりで言ったのだろう。
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