第一話

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《史上最年少名人米山康生(よねやまこうせい)7段は今日、2個目のタイトル奪取に向けて竜王戦七番勝負第一局に臨みます。相手は……》  テレビに映し出される朝の情報番組。  それに耳を傾けながら僕は今、学校へ行く準備を進めている。 「――へぇ。米山君、次は竜王戦かぁ。凄いなぁ」  テレビへ向かって感嘆の言葉を漏らした僕――吉本奏(よしもとかなで)は、実は昔、プロ棋士を目指していた頃がある。    しかし今はもう将棋の道からは外れ……そろそろ5年くらい経つ頃だと思う。  そんな僕とは正反対に、将棋の道を極め続けたかつての戦友(ライバル)――それがそう。今テレビから流れてきた米山康生名人その人の事である。  14歳5ヶ月で四段(プロ棋士)へ昇段。  16歳7ヶ月で『名人』獲得。  そのどちらも史上最年少記録であり、更にそれまでの記録を大幅に更新した事から、まるで創作の中の〝主人公〟のようだ、と。  もはや将棋の枠を越えた注目が今、米山名人へと注がれている。    小学生の頃、互いに鎬を削り合っていた頃はよく僕と米山君は比べられたものだが、今となっては遠い存在となってしまった。  かと言って、今更プロ棋士を目指そうにも遅すぎるし、というか、そもそも将棋への情熱を失った僕にプロを目指す資格はもはや無い。 《巷じゃ米山名人の事を〝主人公〟や〝神童〟なんて言われているみたいですが、そう呼ばれる事についてどう感じてますか?》  記者会見的画角から米山名人へ記者から質問が飛ぶ。  それに答える米山名人。 《ははは。……まぁ、そうですね。〝主人公〟については特に何も思う事はありません。勝手に呼んで下さいって感じです。――ただ、〝神童〟の二つ名は僕にはちょっと荷が重いというか……僕は知ってますから……本物の〝神童〟というものを――》  ――ピッ。 「さて、行くか」  登校支度が整ってところでテレビを消し、僕は学校へと向かうのだった。
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