第四話

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 朝の気配に目を覚まし、ベッドから起き上がる。 「またあの夢か」  と、口さがなく言う反面、別に嫌な夢を見たという認識はない。むしろ良い夢だ。  その夢の本源は幼い頃の記憶からきている。  それが今でも夢となって甦るわけだが、幾度と見ている夢な為に少し食傷気味になっている。 「ふっ。あの子は今、どうしてるのかな……?もう、泣き止んだかな?」  ただ、記憶の中の泣き虫な女の子に思いを馳せると自然と口元が緩む。  一応、自己分析としてその夢を何度も見る理由は分かっているつもりだ。    要は酔っているのだ。当時の自分に。  幼いながらに目の前で泣いている女の子をなんとかしようと、必死に守ろうとしたその行動と勇気に。 「うぅ……。我ながら気色悪い考えだ……」  ……うん。そう、その通り。僕は気持ち悪い。  でも一応、そんな自分を客観的に気持ち悪いと思えるだけの常識があっただけ、大目にみてほしい。  と、まぁ、それはさて置きだ。  昨夜はそれともう一つ、とんでもない夢を見ていたような気がする。  そちらの夢は文字通りの〝夢〟だろう。  そう。()のような〝()〟。 「……それにしても、間近で見る佐々木結衣、めちゃくちゃ可愛いかったなぁ」  もしも〝夢〟にクオリティの概念があるとするならば、  まるで現実の出来事のような、鮮明に色づいたハイクオリティな夢だった。    あの〝佐々木結衣〟と、あのような甘いやり取りを交わすなんて事、言うまでもなく現実では絶対にあり得ない。  そんな貴重な体験を、夢だったにせよ味わえた事に、 「何だか得した気分」  と、一人ニヤける。  そんな自分をやはりヤバい奴だと卑下すると同時に、もう少しあの夢の世界の中に居たかった――という甘酸っぱい心境のもと、僕は学校へ行く支度を始めるのだった。
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