第四話

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 ――夜。  いつものように夕食、風呂、その他家事諸々を済ませると、僕はそそくさとケトルで湯を沸かし、ココアを作り始める。  時刻は21時15分を指している。  昨夜ココアを片手にベランダに出た時刻が21時20分頃。そして佐々木結衣と遭遇したのはその直後。  僕は昨夜と全く同じ時間帯を見計らいベランダへと出る。  また彼女と……佐々木結衣と遭遇できやしないだろうかという淡い期待を胸に。  でも、 「……そんな都合良く居るわけないか」  ――分かってる。  きっと昨日のアレはたまたまだったのだ。  いくら僕が昨夜と同じ行動を辿ったとして、あっちも同じ行動を辿るとは限らない。  ただ……もしかしたら、と……そんな僅かな希望の元に起こした行動だった。  それほどに、僕にとって昨夜の邂逅(かいこう)はあまりに甘く刺激的なものだったのだ。  何せ、あの〝佐々木結衣〟と二人きり。学校じゃ絶対に叶わないシュチュエーションだ。  誰から邪魔される事も無く、ゆっくり落ち着いた空気感の中でもう一度、昨夜のような夢のような邂逅を果たしたい。そう思ってしまっていた。 「……はぁ。」  落胆に満ちた大きな溜息と共にベランダフェンスの上に肘をつくと星空を見上げ、ココアを飲む。するとそこへ、 「溜息ばかり吐いてると幸せが逃げちゃうぞ?」 「――えっ!?」  切望していた鈴の声音に不意をつかれ、咄嗟に振り向くとそこには、 「こんばんは」  もたれ掛かるようにしてベランダフェンス上に両腕を置いた格好の佐々木結衣が、にっこりと天使のような微笑みをこちらへ向けていた。
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