第五話

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第五話

「こんばんは」  と、天使のような微笑みでこちらを向く少女。  その透明感のある美しさはまるでガラス細工のようで、同時に脆く壊れてしまいそうな、そんな儚い印象さえ受け取れた。  だからか、守らなければ――という使命感が過る。  ――そう。あの〝幼き日〟のように。    昨夜同様、またしても二人きりで面と向き合っているこの状況下。  否が応と高揚感と鼓動が一気に跳ね上がる。  確かに望んだ邂逅ではあった。でも、そもそもは駄目元。  文字通り淡い期待しか持っていなかったからこそ、唐突に訪れたこの展開がどうしようもなく嬉しい。 「あぁ。うん……こ、こんばんは……」  平静を装うにも上手くいかず、どうしても動揺が前に出てしまう。 「今日も奏君居るかなー?と思って覗いてみたらやっぱりいた。いつもこの時間になったらベランダ出てるの?」 (え?佐々木さんも僕の事を……?)  その言い草から、僕と同じように時刻を見てベランダへ出てきていた事を知り舞い上がる。でもそれを表面には出すまいと必死に平静を装う。  悲しいかな。これが陰キャの習性というやつだ。 「え、まぁ……うん。最近()()で星を見るのにハマってて……」 「あ……そうだったんだ。ごめんね、私邪魔しちゃったみたい」  僕が返した言葉の中の〝一人で〟という部分に反応したらしい彼女は困ったような笑みを浮かべててへぺろのポーズを取ると「――よいしょ」と、もたれ掛かっていたベランダフェンスから身を剥がした。 「……それじゃ私、中(部屋の中)入るね。おやすみ、奏君」  そう言いながらこちらへ向けた彼女の微笑みの中に、僕は心なしか残念そうな色を見たような気がした。 「――ちょっと待って!」  そう思った瞬間、咄嗟にその声は出てしまっていた。
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