第五話

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「ん?何?どうかした?」  呼び止めてしまった瞬間、『しまった』と思った。  しかし、呼び止められた側の彼女のその表情は明るいものへと変化してるように思えた。  そんな彼女の様子に勇気を貰い、僕は口を開く。 「……い、いつもは確かに一人なんだけどさ……えっと……その……」  絞り出すように、辿々しい口調でなんとか言葉を紡ぎ出そうとするも、羞恥心が先行してしまいその先がどうしても出てこない。  そんな様子に彼女は何かを察したのか、再びフェンス上に両腕を乗せると元の体勢に戻し、こちらを向いた。  その顔には嬉しそうな悪戯的な笑みが張り付いている。 「……えっと、それは何?――要するに、私と一緒に星空を眺めようって、そういう事でいいのかな?」  そう問われ、ここで僕はふと我に帰る。 「…………」  一体僕は誰に向かって何を言っているのか……と。  勢いで出た声とはいえ、相手はあの〝佐々木結衣〟だ。間違っても僕みたいな陰キャが『もう少し一緒にいたい』だなんて口走るどころか、思う事すらしてはいけないような、雲の上の存在だ。  しかし、そんな劣等感からくる悲観とは裏腹に、今目の前でこちらを向く彼女のその表情はどこか嬉しそうにも見えなくもない。  僕はそんな彼女の揶揄うような微笑みに戸惑い、いつものように言葉が出ない。  すると彼女は、そんな無言の僕に対して、 「――うん!いいよ!」  と、〝そう勝手に解釈します〟の体で今度はニコッと、小悪魔から天使の笑みに切り替えた。  その笑顔はまるで、彼女もまた僕とこうやって同じ時間を共有する事が嬉しいかのような……そんな、勘違いを引き起こさせるような笑顔だった。
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