第五話

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「「………………」」    気付けば心地の悪い沈黙が落ち始めていた。(またやってしまった……)  そして、   「……あれ?違った?もしかして私の早とちり?……やだっ!めっちゃ恥ずかしいやつだ! それじゃ、私帰るね、おやすみ!」  彼女はキラキラとした笑顔から一転、苦笑いへと作り変えると、逃げるようにして部屋の中へと入ろうとした。   そんな彼女へ僕は慌てて声を上げる。 「――いや、違わないよ!」 「え?」  突然の僕らしくない張った声音に、彼女は驚いた顔でこちらを向いた。  そして僕は再度「……違わない」と口にしてから、 「……良かったら、い、一緒に観よう?星空。 ほら、綺麗だよ?」  と、勇気を振り絞り、震える声で言葉を紡ぎ出し、夜空を指差した。  すると彼女は嬉しそうに微笑み、 「うん。本当だね!綺麗……」  と、僕の指差す先を見上げた。  確かに今日は雲が無く星を眺めるには絶好の日和だ。ただでも、特段星が綺麗に見える土地柄で無ければ、実のところ僕はそもそも星が見たくてこうしてベランダへ出ていたわけではない。……いや、確かに星は眺めていた。でも、『わぁ、綺麗』とかそんな感想は無く、ただボーっと眺めているだけ。そこには何の想いも無かった。じゃあ何故?――たぶんそれは毎日が楽しくないから、だと思う。  一日の清算とでも言おうか。それが昨日までの行動原理。でも今日は違った。  彼女――佐々木結衣との邂逅を望んだがゆえの行動であり、そして今、彼女と同じ夜空を見上げて思う事がある。  ――星が綺麗だ。物凄く。
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