第五話

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「「…………」」  互いの部屋を区切ったベランダフェンス際の最も近い距離感にあの佐々木結衣いる現状、またして沈黙が流れている。  でも、この沈黙は不思議と心地良い。  そんな中、先に口を開いたのは彼女の方だった。 「……私さ、学校じゃあんな感じだからさ。中々奏君と話せないなーって、思ってたんだよね。……だから今この瞬間、結構嬉しいっていうか、幸せだなーって、そう思うんだよね」 (それはこっちの台詞だよ……)  と、そう思いながら隣りを向く。  そこには本当に幸せそうな彼女の横顔があり、そして何より美しかった。  正直、惚れてしまいそうな程に……いや、でもダメだ。  こんな僕が、そんな夢のような事を考えてはいけない。  それに、今の彼女の言葉だってきっと深い意味は込められていないはずなんだ。  と、いつものように自制を効かせ、我に帰る。  まったく。  僕だから良かったものを、他の陰キャならきっとここで大きな勘違いを引き起こしていた事だろう。    ふと彼女がこちらを振り向いた。   「――ねぇ、奏君……」  僕は咄嗟に視線を外してしまう。  理由は自分でも分からない。  そんな僕に彼女は、 「ねぇ、こっち見てよ?」  と、そう言われて僕は彼女の方へと視線を戻す。すると彼女は、 「私、もっと奏君の事知りたい。もっと奏君と仲良くなりたい」  と、真っ直ぐに僕の目を見つめてそう口にした。
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