第一話

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「――今日はまず始めに、転校生を紹介するぞ!」  朝のホームルームの時間、教室へ入って来た担任の先生は唐突にそんな声を上げた。  転校生という単語にクラスの大半が、おぉ〜っ、と関心の声を上げる中、特に興味無いとばかりにそっぽを向く者も中にはいる。  そう、僕の事だ。 「……でだ。お前達……驚くなよ?」  そう前置きした先生。    はて、驚くような転校生?  その言葉にようやく興味を惹かれた僕は窓の外から先生の方へと視線を移す。するとその顔には得意気とも不敵とも取れるようなニヤリとした笑みが刻まれていた。  まだ見ぬ転校生がどんな人物であるのか、クラスの関心が転校生へ集まるまでは分かる話だ。  だがしかし、その転校生を実際に見た時の〝驚く〟という表現がいまいちピンとこない。  驚くような美少女?  それとも驚くようなイケメン?    うーむ。どちらもピンとこないところだが、どせなら前者でお願いしたいものだ。  ただ誤解しないで欲しいのは、その美少女転校生(仮)との具体的な何かを期待するわけじゃない。  そもそも僕みたいな陰キャにとって、そんな妄想は御法度なのだ。    と、そんな妄想はさて置き、依然として先生は勿体ぶるような笑みを浮かべている。  対して、一体どういう意味だ?と疑問符を浮かべる僕達生徒一同。    そんなクラスの面々を先生は面白そうにぐるりと一周見渡すと、自身が入ってきた教室の扉の方を向いた。  そして、 「――それじゃあ、入って来てくれ」  先生は教室の外で待機しているだろう、その転校生へ入室を促した。  ――ガラガラガラ。  引き戸式の扉が開かれた途端、外から春風が立ち込め、教室内にひらひらと桜の花びらが舞った。  直後、長いダークブラウンの髪を靡かせながら転校生と思しき少女が教室内へと入ってくる。  サラサラと流れる絹のような焦茶と、舞う桃色。  その美し過ぎるコントラストに僕を含めたクラス全員が息を飲む。  そして、 「――佐々木結衣です。今日からよろしくお願いします」  教壇の前で自己紹介を口にしたその少女は軽く一礼をした。 「「「………………」」」  その直後というか、そもそも教室の扉が開いた時点で既に全員がポカーンと口を半開きにし、まるで時が止まったかのような静けさが教室内を支配していた。  そして次の瞬間、まるで、溜め込んだエネルギーが一気に放出されたかのような凄まじいどよめきが教室内に響き渡った。 「「「えぇぇぇーーーーーッッ!!!!????」」」
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