第六話

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第六話

 ()()()()()――  結衣は確かにそう言った。  そしてその言い回しは僕が彼女とのやり取りの中で感じ取っていた所感と一致する。  ただ、それをそのままの所感の通りには捉えるわけにはいかなかった。  到底あり得ない事だと蓋をして、考えないようにしてきた。  とはいえだ。  もしかしたらと――そんな妄想めいた事はどうしても思ってしまうもので……。  その度に自分の心に『待った』をかけ、思考を巡らせ、落とし所を見つけてはそこに思い留まる。それの繰り返しだった。  だが、たった今、結衣本人の口からその〝可能性〟について裏付けるような発言があり、 「え?僕()()()……付き纏う……?」  僕はすかさずその証言の裏取りを開始する。しかし、 「うん。実は、奏君にお願いしたい事があってね……それで……ね?」  と、彼女が浮かべた申し訳無さそうな笑みに、僕が抱いた期待は早々に打ち砕かれる事となった。 (――あぁ、そりゃそうだよな。変な期待なんかして……本当、馬鹿だな僕は……)  バクバクと脈打っていた鼓動が嘘のように沈んでいく。  そして、なるほどな、そういう事かと、不思議に思っていた点が全て線で繋がった。  要するに、結衣の僕に対する行動は全て損得勘定によるものだったらしい。  幸い、切り替えは早い方だ。それに、歓喜しながらでも、懐疑的な目は捨ててはいなかったので、思いのほか傷は深くはない……はずだ。  期待と落胆、その他にも弄ばれたという理不尽な感情からくる彼女へ対する僅かばりの憤りと失望、それら蠢く様々な感情を抱きつつも、何はともあれ、まずは結衣の言うその〝お願い〟について詳しく聞いてみる事にする。
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