第六話

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 実は彼女――佐々木結衣は将棋の実力者として有名だ。  前に、テレビ番組で〝芸能界最強将棋王決定戦〟なるものを見た事があるが、そこで彼女は芸能界No.1に輝いていた。  そして僕もまた、将棋界隈では少しばかり名の知れた存在()()()。  将棋界隈に精通してるであろう彼女ならば、確かに僕の名前を知っていて不思議は無い。  芸能界No.1棋士からの棋力を見込まれた上での誘い……。  まぁ、確かに光栄な話ではある。 「…………」  しかし、僕はその返事を躊躇する。  そんな僕に彼女は更に言葉を紡ぎ出す。 「……強いよね?将棋。……本来、アマチュア将棋における最高段位は事実上6段まで。それ以上の段位が認められる事は極めて稀。あの米山名人でさえアマチュア時代は6段止まりだった。そんな中、君の段位は8段。無論、当時のアマチュア将棋界で米山名人を含めた誰もが君には勝てず、結局君は誰からも負かされる事なく、将棋の世界から忽然と姿を消した……」  彼女の顔からは『――何で? どうして?』というような疑問が張り付いていた。  その疑問の意味。……そう、分かっている。  僕はあの頃から長く将棋の駒に触れていない。
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