第七話

2/4
前へ
/64ページ
次へ
 普段じゃ絶対に見る事の出来ないポニーテールと完全ノーメイクに黒縁めがねを掛け、それから、ほんのりと薄紅色に染まった頬と、ふわりと香るシャンプーの匂い。おそらく風呂上がりだろうと容易に想像できる。  これだけでも充分刺激的なのに、さらに黒のタンクトップを着た上に白い薄手のカーディガンを羽織り、下はラフなショートパンツを履いたその部屋着姿は、トップアイドルだった頃のカリスマ的な印象とも、制服姿の可憐で清楚な印象とも違う。  無防備で、赤裸々で、どこか危うさを孕んだような、そんな凶悪狂乱エロスタシー(?)に僕の心の純潔は容赦なく殴打され、今にも崩壊寸前だ。  思わず結衣の部屋姿(ソレ)を見てゴクリと生唾を飲んでしまったタイミングで、結衣が口元に手を当ててクスッと小さく笑った。 「ふふ。奏君、女の子の部屋は初めてかな?」  そう聞かれ、僕は視線を逸らしながらコクリと頷くだけ。  たぶん今の生唾ゴクリがバレたんだ……。  そう思い、気まずいのと恥ずかしいのと、そんな居た堪れない気持ちで未だ玄関先から一歩を踏み出せず、その場に俯き、立ち尽くしていると、結衣の方からこちらへ一歩を踏み出して来た。 (いや、ちょっ待――それ以上近寄ら――ッ!?)  そんな心の叫びも虚しく、結衣は間近までやって来ると、 「まぁ、そんなに緊張しないで? ね? さぁどうぞ、上がって上がって」  そう言って僕の背中へと手を回し入室を促してきた。  密着する結衣の身体。  ふわりと香るシャンプーの匂いと、それとはまた一味違う柔軟剤でも石鹸でも無い、おそらく結衣自身から発せられているだろう甘く魅惑的な匂いに、僕の脳は文字通りの悩殺的ダメージを受ける。  が、童貞殺しの暴力はまだまだ終わらない。  前開きしたカーディガンの隙間から覗く(わき)チラ、薄着ゆえか、いつにも増して主張の激しい胸の膨らみ、ゆったりとしたタンクトップの首元から覗くブラ紐、そして谷間……あらゆる暴力に僕の脳はとうとう限界を迎え、そして遠のいてゆく意識の中、 「……え?――ちょ、奏君?奏君!? 大丈夫?!」  という結衣の焦った声を最後に、僕の意識は完全に途絶えたのだった。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加