第七話

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「――君? ねぇ、大丈夫!?おーい、奏君!?」  結衣の声と共に意識が戻り、僕はゆっくりと目を開けた。 「――あ!!気がついた!? 良かったぁ、すごく心配したんだよ?」  頭上から結衣の顔が覗くように落ちてきて、その近さと、不自然なアングル、更に自分が横になっている事に加え、後頭部と首に感じる素肌の感触から、ある事に気付く。 (これってもしかして……膝、枕?) 「――ッ!?」  ハッとなって起き上がり、後ろを振り返ると、ホッとした表情の結衣が居た。 「気分はどう?大丈夫?いきなり鼻血出して倒れるんだもん。本当、びっくりしたよ」 「……鼻血?」  言われて気付く、鼻腔に詰まるティッシュの感触。  そして僕はここまでの経緯を思い出す。  まさか、『結衣から発するシャンプーの匂いと魅惑的体臭に加え、服の隙間から覗くチラリズムに興奮して鼻血を出し、さらには気絶までしてしまいました』とはもちろん言えず、 「……ここ来る前にお風呂済ませてきたんだけど、ちょっと長く浸かり過ぎちゃったみたい……のぼせちゃったのかなぁ〜……えへへ……」  と、お風呂のせいにするのだった。ただ、実際には湯船には浸からずシャワーのみだったので、のぼせた可能性はほぼ皆無だ。 「そうだと思った。――っんもう、驚かせないでよねぇ〜」  と言った結衣の手にはうちわがあって。  正座でうちわを手に持ったその体制から、僕が気を失ってる間、膝枕しながらそのうちわで仰いでくれていた事が想像できる。  そして自然と目が釘付けになる結衣のその露出した太ももは、正座でいるせいか普段よりも太くムチムチとして見え、とても柔らかそうだ。  そこにたった今まで自分の頭が乗せられていたと思うと、気持ち的に熱くなる。 「……ご、ごめん……」  と、理性を働かせ、なんとか視線のやり場を太ももから引っ剥がすと一言謝罪を口にするのが精一杯だった。 「本当だよぉ〜?すっごく心配したんだから。もうちょっと目が覚めるの遅かったら救急車呼んでたよ。 で、気分はもう良いの?もしまだ体調が優れないなら対局はまた今度にしようか?」  僕は気を取り直す意味合いで己の頬を両手でパンッ!!と叩くと首を横に振り、 「――ううん!やろう!今から、将棋!」  と、力強く答えるのだった。
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