第八話

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第八話

「「お願いします」」  僕と結衣は将棋盤を挟んで互いに向き合い一礼を交わした。  この対局の本来の目的は、ペア将棋における呼吸合わせ。  事前に互いの棋力や指し筋の癖などを把握する為のあくまで模擬戦なのだが、お互い〝神童〟やら〝芸能界最強〟といった二つ名を持つ実力者である故に、実際には互いにバチバチと火花散る真剣勝負といった様相を呈している。 「じゃあ、先手どうぞ」  僕は掌を差し出し、そう言って結衣へ先手を促す。   「……ふーん。余裕だねぇ。 じゃ、遠慮なく行かせてもらうけど――あんま私の事舐めてると痛い目見るかもよ?」  僕から先手を()()()()事が気に障ったのか、苛立ちを含んだかのような薄ら笑いを浮かべた結衣。  直後、右腕が動き出す。  スッと色白い結衣の手が盤上に伸びると、【角】の右斜め上にある【歩】を掴み上げ、そのまま慣れた所作で人差し指、中指にて挟むように持ち変えられると、手首をしならせ、勢いよく、それでいて美しい軌道を描きながら盤上へと打ち下ろされた。  ――パチ!(先手7六歩)
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