第八話

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「――さぁ、どうする? この状況でも〝美濃囲い〟にする?」 (ちっ……。やはり結衣の狙いは美濃囲いへの牽制だったか)  僕はオールラウンダーだけれど、どちらかと言えば振り飛車寄りだ。そして、美濃囲いを多用する。  そして結衣は僕の指す将棋の型を既に知って分かっているようだった。  つまり、僕が振り飛車で来る事も想定した上で、向い飛車にしてきた、という事だろう。  結衣の狙いは以下の通りだ。  まず〝美濃囲い〟とは、振り飛車によく見られる常套手段(じょうとうしゅだん)で、  扱い易さと攻守に優れた、おそらく振り飛車党に最も好まれている陣形だろう。  しかし、指し手から見て右から二番目のマスに【玉】を据え置くその陣形が、向かい飛車(二間の位置)の飛車筋にピッタリ乗ってしまう。  つまり、相手の【飛車】と自陣の【玉】が向かい合い、玉頭を狙われてしまうのだ。  そして美濃囲いは玉頭が弱く、そんな急所を、ピンポイントで、それも序盤の内に【飛車】に睨まれるのはかなりキツい。  と、いうわけで既に8筋から【飛車】が睨みを効かせている現状、美濃囲いには行き辛い。行けば劣勢だ。  なので普通ならこの状況、美濃囲いを避けて他の陣形を選ぶところ……なのだが。  ――パチンっ!!(後手6ニ玉) 「面白い。受けて立つよその勝負。……望み通り美濃囲いでいくから、この【玉】、()れるものならやってみてよ」  僕は敢えて美濃囲いで組む事を宣言した。
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