第八話

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 一方、そんな挑発的宣言を受けた結衣は一瞬驚いたように目を見開き、 「……ふーん、なるほどね……それだよそれ。その、人を見下したような絶対的強者の目……。帰ってきたね。おかえり()()」  と、一度は穏やかな微笑みを浮かべたが、その直後「――でも、だからって私相手に舐めプ宣言するとはいい度胸じゃない?――ん?」と、今度は威圧感たっぷりの薄ら笑いを浮かべてそう凄むように言った。尚、目だけは全く笑っていない。 (うわ、めっちゃピキッてなってるし……)  これまでのやり取りの中でも薄々分かっちゃいたけれど、結衣は将棋の事となると闘争心剥き出しでまるで別人格のように変わるようだ。  普段の清楚で優しく、いつもキラキラとした天使の微笑みを絶やさない、まさに絵に描いたようなヒロイン像は今は存在しない。  あるのは苛立ちを隠しきれない悪魔のような微笑みだ。  しかし僕とて、わざと負けてやるつもりはない。 「ふん。そういう事は、この【玉】を()ってから言ってよ」  結衣からの挑発に対して僕がそう返した瞬間、結衣の表情から一切の笑みが消え、同時に結衣の瞳の奥に青い怒りの炎が煌めいたのが分かった。 「――上等だ、コラ。その【玉】、この私が握り潰してやんよ」  もはや完全に別人の言葉遣いで言い放った結衣は、    ――バチィッ!!(先手8六歩)  と、急戦へと持ち込む超攻撃的一手を打つのだった。  そして僕は、 (……【玉】を握り潰すって……。それだけはやめて……?)  と反応的に怯むのだった。
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