第九話

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第九話

「……ま、負け……ました」  と、そう悔しそうに頭を下げたのは結衣の方だった。 「ん。ありがとうごさいました」  僕の方も頭を下げる。 「……やっぱり、さすがだね奏君。私の将棋が全く通用しなかったよ……完敗だなぁ……」  結衣はそう言うと落ち込んだように頭をしゅんと下げた。  ちなみに今はもう、将棋の悪魔に取り憑かれたアノ様子はなく、()()の結衣に戻っているようだ。…………と、ここで、ちょっと恐い事を思ってしまう。  ――『上等だ、コラ。その【玉】私が握り潰してやんよ……やんよ……やんょ……』  今、頭の中でエコーの如く響き渡ったのは先程結衣が放った戦慄の台詞だ。  まさか、あっちが本来の結衣だなんて事は……いやいや、んなわけないか。  僕は邪念を振り払うかのように軽く首を振ると、落ち込む結衣に言葉を掛ける。 「いや。そんな事もないよ。8筋から急戦に持ち込まれた時は正直きつかったし、かなり苦戦を強いられたよ」 「気休めはやめてよ。敢えて私の有利な形にされた上で負けたのよ?どう見たって私の完敗よ」
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