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「……もし良かったら、もう一回しない?」
しゅんとしている結衣に、僕はそう声を掛けると、結衣はすぐに顔を上げ僕を見た。
「いいよ」
その目は再び勝負師の目だ。
瞳の奥に光を宿し、僕を睨み付けるように見据える。
僕も負けじと結衣の目を見る。
「今度こそ本気だ。覚悟しろよ?」
「望むところよ!次手加減したら、今度こそ握り潰すから」
(ひぃ……。それはやめて?)
◆◇◆
――30分後。
「……うぅ……ゔぅ〜ん…………ま……負けました」
「ありがとうございました」
「……全然……何もさせて貰えなかった……」
第一局目では所々で攻防を繰り広げる場面があったものの、第二局目では殆ど一方的な展開で終わった。もちろん、僕が勝った。
圧倒的棋力の差を見せつけ、遠慮なく、完膚なきまでに叩き潰した。
そして、今の結衣の表情には正気は無く、ボーっと負けた盤面をただ一点に見つめている。
まさに茫然自失といった様子だ。
(アレ? 今度こそ、本当にやり過ぎてしまったか……?)
「まさか、ここまで強いとは思ってなかったよ……。 ねぇ奏君。将棋指すの本当に久しぶりなの?」
力無く、淡々とした口調でそう問われ、僕は申し訳なく答える。
「……うん。まぁ、そうだけど……」
「(……次元が違い過ぎる……これでアマチュア? それも、五年ぶり?……信じられない。まだ『プロです』って言われた方がよっぽど納得がいく。……神童?いや、もうこれ〝神〟じゃん。マジもんの天才よ。いや、鬼よ。化け物よ。そりゃ誰も勝てなくて当然よ。勝てるわけ無いじゃない、こんなの。強すぎ、……ていうか、そもそも私なんかが挑んでいい相手じゃなかったのよ……)」
何やら一人呪文のようにぶつぶつと言い始めるが、その内容は聞き取れない。
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