第二話

1/5
前へ
/58ページ
次へ

第二話

 佐々木結衣が転校して来たその日。休み時間になる度に僕の隣りの席の周りには尋常じゃない人集(ひとだか)りが出来ていた。  視界には見渡す限りの人、人、人。  さらには教室内に収まりきらず、外にまで無数の人集りが出来ている。おそらく全校生徒が一斉に集まって来ているのだろう。  でもまぁ、あの佐々木結衣がこんな地方の高校に突如として現れたのだ。当然と言えば当然の現象とも言える。  押し寄せる生徒の波に飲まれ、押し潰され、そんな尋常じゃなく騒がしい一日も、放課後を告げるチャイムと共に終わりを迎える。  僕は、ヨロヨロとした足取りで家路についた。 「はぁ。なんだかものすごく疲れる一日だったな……」  ボソリと、そんな疲弊の言葉を吐きながら家の鍵を開け中へと入る。  築20年1LDKのアパート。  ここで一人暮らしを始めるようになって一カ月。  母は僕が小学生の頃に亡くなり、父は海外赴任中の為、現在の僕の境遇は実質的に天涯孤独と言っていい。  そして僕は、家族をかえりみず、何よりも仕事を最優先させてきた父の事をもはや〝父親〟だとは思っていない。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加