第十一話

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 田舎という事もあって乗客は少ない。  老夫婦と杖を持ったおばあちゃんの3人だ。僕は適当に空いた席に座ると、その後をつけるように迷子の少女も僕の隣りへと座った。  チラッとその横顔を見ると、不安からか表情は強張り、今にも泣き出しそうな顔をしている。  僕はそんな少女を励ますつもりで、 『大丈夫。必ず僕が君の家まで送り届けるから。だから、安心して?』  そう言うと、振り向いた少女がニコッと微笑んだ。  第一印象こそまるで〝ち◯まる子ちゃん〟のようだと、それしか思わなかったのが、今こうして真正面から微笑みを向けられ、初めて僕の鼓動がドキリと跳ねた。  よく見るとこの少女、とても可愛らしく整った顔をしている。 『……うん。ありがとう』  少女はそう言うと、極々自然な感じで僕の手をきゅと握ってきた。  またしても鼓動が跳ねる。そして今度はさっきのとは比べものにならない程の大きな高鳴りだった。  ――そう。僕の初恋はこの時だった。
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