第十二話(結衣視点)

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第十二話(結衣視点)

 私の名前は佐々木結衣。16歳。  アイドルを辞めて一ヶ月が経ったけれど、実質的にはまだまだ〝普通の女子校生〟とはいかないらしく、周囲は未だ私の事を〝芸能人〟として見ている。  アイドルを辞めた理由は『もう、そろそろいいかな?』といった、要は頂点へと登り詰めたその時点で、アイドルになった元々の目的を果たしてしまった為だ。  ただ、少しニュアンスが違うのは、それまでアイドルの頂点を目指して常に上目線で目標を持ち続けてきた身から一転して、今度は頂点に立つ身となった事で目標を失い、アイドルとしてのモチベーションを維持出来なくなってしまったから――といったような、所謂上昇志向的類いのものではなくて。  私にとって〝アイドル〟とは飽くまで通過点に過ぎなかった、という事。  つまり、そう。  私はアイドルに()()()()()なったわけじゃなかった。  有名になりたいだとか、トップアイドルになりたいだとか、〝日本一可愛い女の子〟とか、そんなのはどうでも良かった。  でも、()()、それらを目指した事には違いない。  自らアイドルを志望したし、人気を得る努力もした。  広く自分を売る為女優としての仕事も積極的にやった。  誰よりも可愛くなる為、自分磨きも頑張った。(いや、でも整形はしてないよ?本当に)  でも、そうした芸能界という煌びやかな世界へ身を投じようとしたそもそもの動機は決して、有名になたいから、という自尊心の為ではなく、しつこく繰り返すけど、飽くまで通過点だった。  アイドルも、女優も、〝日本一可愛い女の子〟も。  ――飽くまで、私の夢はその先にある。  ――え? その夢とは一体何かって?  トップアイドルになる事が通過点に過ぎない程の偉大なるその夢って一体、何かって?  そんなのもちろん……  〝お嫁さん〟に決まってるじゃない。――あ、間違えた。  ここ、大事なとこだから訂正させて?  ――〝()()()()()お嫁さん〟。  これが私にとっての唯一無二の夢!……ただ〝夢〟とは言ったけれど、()()()()()()つもりは毛頭ないっ!!  絶対に現実にしたい!!――いや、する!!  そう思って私はアイドルになり、更にその頂点を目指した。  もの凄く端的で低俗な言い方をすればモテる為だ。  但し、モテたい対象はただ一人。それが誰なのかはもはや言うまでもない。
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