第十二話(結衣視点)

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 今でもあの日の事は鮮明に覚えている。  モクモクと、まるで迫り来るかのような入道雲が浮かんだ夏空の下――当時7歳だった私は両親に連れられて隣町まで買い物に来ていた。  その日は日曜日という事もあってか、多くの買い物客で賑わっており、そのせいもあってか私はいつの間にか両親とはぐれてしまっていた。  必死に店内を走り回り、両親の姿を探すが見つからない。  ――まさか、もう、お家へ帰っちゃったとか?もしかしたら知らず自分は何か悪い事をしていて、そんな自分に愛想をつかせた両親は私を置き去りにして帰ってしまったのかもしれない。  私は怒った両親が車に乗り込む姿を想像し、その後を追うように店の外へと出た。    泣きながら、走りながら、乗ってきた我が家の車を探すが見当たらない。  するとそんな時、ふと目に止まったのはバス停留所。丁度バスが止まっているところだった。  既にパニック状態に陥っていた私は、あろう事か衝動的にそのバスに乗り込んでしまった。    ――しまった!  そう我に返った時には既に遅く、プシューという音と共に背後の扉が閉まり、そしてバスは走り出してしまった。  当時7歳の私に、乗ったそのバスの行き先は分からない。家に近づいて行くのか、逆に離れて行くのか、それすらも分からなかった。  出来る事は車窓の外に我が家周辺の見慣れた風景を探す事のみ。  だが、いくら待てどその風景は訪れず――『あぁ、たぶんこれ、お家から離れて行ってる……。もしかしたら、もう二度とお家に帰れないかもしれない。』そう思い始めた頃、丁度バスが止まった停留所で私は降りる決心をした。  尚、降りる際、私はお金を持っておらず、バスの運転手から暫く説教を受けた後にようやく解放され、泣きながらその地に降りた。
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