第二話

5/5
前へ
/58ページ
次へ
 嬉しく思っているのか、厄介事として捉えているのか、正直自分でもよく分からない複雑な心境だ。    ただひとつ確実に言える事は、例え佐々木結衣が隣りの席になったからと、それは完全なる他人事であり、僕の学校生活には何ら影響は及ぼさないという事。  この機をチャンスと捉え、あの佐々木結衣とお近づきになろうだとか、なりたいという願望すら持つ事はない。生憎、そんな野心を膨らませる程僕は自分を高く評価していない。    たぶん会話すら無いだろう。  最低限挨拶を交わすだけ。現に今日も、最初の「よろしくね」以降は一言も話さなかった。 「……またっく。何考えてんだ僕は」  佐々木結衣について、あーだこーだと考えてる事自体、憚られる思いだ。  自分には関係無い事だと、そう頭の中で区切りをつけると、僕は星を見上げながらホットココアを飲んだ――と、その瞬間(とき)だった。 「あれ?」  突然、僕の左側の鼓膜を鈴音のような美声が震わせた。  振り向くと、その声の主は隣室のベランダに居た。 「あ、やっぱりそうだ!こんばんは。吉本君」  と、そこにあるはずのない〝日本一可愛い〟微笑みが、僕の事を見つめていた。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加