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マネージャーが学校近くまで迎えに来てくれていてその足で事務所へ向かう。学校から事務所に向かうのもこれが最後かとボーッと道路を眺める。
アイドルになる道は自分で選んだはずなのに、その忙しさから“なんでこんなに大変な想いしないといけないんだろう“と思いながらこの景色を眺めた日のほうが多かった。
事務所の地下駐車場に到着すると同時に先輩からの電話が鳴り響いた。
私の探知機でも持っているのか。
「おい、まだ〜? 遅くねぇか?」
今日は事務所に呼ばれたといってもマネージャーや上の人から注意されたり怒られるわけではない。
呼び出したのは大先輩のお兄さん。
通話越しに彼らがいつも通りふざけあってる声が聞こえる。
いつ会っても元気なんだよな、あのお兄さんたち。
「今着きました!」
うちの事務所は、デビューしたアーティストと練習生たちで建物が違う。どちらがデビュー済み専用ビル一目でわかるほど外観が美しい。
車を降りるなり綺麗な方の入り口へ走った。
練習生用ビルに最後に入ったのは3年以上前。
しばらくは、体が練習生用ビルのフロントへ赴くのを覚えていて間違えてそっちに向かいマネージャーに止められることもあった。
今ではすっかり、綺麗なフロントへ向かう癖が脚に染み付いている。
「こんにちは!」
馴染みの警備員のおじちゃんに入館証を差し出す。
穏やかな笑顔を向けられた。
「おつかれさまです。今日卒業式だったんでしょ? おめでとうございます」
「ありがとうございます!」
先輩の待つフロアへ向かった。
鏡ばりの練習室が2つ、その奥にはレコーディング室と並び、部屋の向かいは広い範囲でテーブルと椅子やソファーが並ぶ。
アーティストたちは日頃、待ち時間や休憩をそこで過ごす。
4階にエレベーターがついて開いたらまだ姿の見えないお兄さんたちの騒がしい声が聞こえてくる。
入っていくタイミングが見つからない。
話の終わりを予想して足を一歩出そうとするとまた他の誰かが被せるように話し始める。
十何年も一緒にいてよく話が尽きないものだ。
彼らの邪魔にならないようにひっそりと姿を現した。
「ユリ! 卒業おめでとう〜!」
いち早く気づいて真っ先に拍手し始めたのは先程の電話の相手、先輩グループの中でも一番年上のお兄さん。
私からしたらみんな“オッパ“なのだけれどもこの人だけは本物のお兄ちゃんのようだ。
一回りも上だしデビュー前からもたくさん可愛がってもらっている。
同じ場に彼のメンバーの面々が揃い、みんなが盛大に祝ってくれた。
彼らの名はSuperboys。スパボの愛称で親しまれている。
2005年にデビューして社会現象にもなるほど人気を博した大所帯グループ。
事務所内に限らず韓国アイドル界の中ではベテランの域に達していて彼らを憧れの先輩として挙げる男性アイドルも少なくない。
チョルスも先輩たちのことをロールモデルにしてるといっていた。
チョルスが所属するデビュー予定組がオッパ達と同じく大所帯だし見習いたい部分が多いのだそう。
確か今日は彼らのデビュー初期からのマネージャーさんの結婚式だそう。その前に事務所に集まるから、ちょっと来て欲しいと言われた。
「お前が成人か〜ワイン一緒に呑む?」
私よりも7個上だけど事務所に入った時期で言えば完全に同期なせいかお互いにちょっとイジりあえる先輩もいれば
「おめでとう。なんだか実感湧かないよ。もう成人だもんね!」
私の成長になぜか涙ぐんでる先輩もいて
「ほら〜写真撮るんだから泣かないでよ〜」
メンバーのなかで一番ジェントルマンな先輩が宥めるように私の肩をそっと撫でた。
私が初めてこのオッパたちに会った時私は10歳だった。
彼らは当時デビューを目前に控えていたから私が練習生として通うようになってからすぐに練習生のビルには姿を見せなくなった。
しかし私のデビューが決まってまた会うようになると、面倒をよく見てくれた。
いつまで経っても幼い妹のようだと言われる。
事務所の同世代の男の子たちはあまり近寄ってこない。
近寄ってきてもまるで腫れ物に触れるかのように扱ってくるから親しくはなれない。
それに対してこちらの先輩たちは私をただの妹のように気楽に扱ってくれるから私も接しやすい。
子ども扱いされたりイジられたり、他の人たちにはそんなことされないから本当に仲良い気がしてなんだか嬉しい。
みんなで集合写真を撮ったら、そのあとはこれといった用もなさそうにしているお兄さん方。
私、今日なんのために呼び出されたんだろう。
一番そばにいてほしい人は、結局いないし......
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