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「リク! お前もいたのかよ、こっちこいよ」
ヒチョル先輩が大声で発した彼の名に心臓が飛び跳ねる。
今ちょうど考えてたのにここでご本人様登場しちゃうの⁉︎
本当は口角があがってしまいそうなところ、真顔を貼り付けて先輩の視線の先を辿ると、片想いの相手がこちらに歩いて来る。
スーツ姿で髪型も珍しくセットしている。
もはや相手の顔なんてほぼ見ることなく挨拶をした。
彼は今日も変わらず不健康な青白い顔で目の下にはくまを作っている。
先生は私の元プロデューサーだ。
4年務めた私の担当を1月末までで終えて、今は新しいグループのデビューに向けての準備を一緒にしている。
毎日会っていた好きな人に理由をつけないと会えなくなる辛さを乗り越えようと気を引き締めていたのに拍子抜け。
「なんだ、居たんだ」
「ヒチョルオッパに呼ばれたのできました。先生こそどうしたんですか?」
「俺も結婚式に招待されてるから。」
先生はこの事務所にきて7、8年経つし事務所の人との関わりが多い。
特に先輩たちの曲はこれまでたくさん提供してきたから招待されて当たり前。
先生のスーツ姿を見れるならもっと頻繁に関係者の結婚式があったらいいのに……
「あと、おめでとう。これ卒業祝い。」
彼が突き出した紙袋にはイヴ・サンローランのロゴ。
反射的に受け取ったが、この夢みたいな状況に「へ?」と腑抜けた声しか出ない。
「わ、私にですか⁉︎」
戸惑う私と「おう」と呟いてそっぽを向く先生を交互に見てヒチョル先輩は笑いながら先生の肩をバシンと叩く。
「なんだよ、お前。自分から、ユリをここに呼び出してほしいって頼んできたくせにそういうことだったのかよ〜照れ屋だな〜」
先輩の暴露にも先生は動じずに
「ユリは俺から呼び出されたら怒られるって勘違いするからヒチョルヒョンに頼んだんだよ」と。
好きな人からのイヴ・サンローランに私は嬉しさを堪えられるわけもなく、満面の笑みでお礼を伝えるも先生の反応はまるで何事もなかったかのように普段通りだ。
先生の反応の薄さに違和感を抱いた私はもしかしてこのプレゼントは紙袋と中身が全然違うものじゃないかと怪しむ。
私のことを一応女の子と認識してくれている気がして一瞬でも舞い上がった。
しかし先生のことだからそんなセンスがいいものを選ぶわけない。
ひょっとして私の好きな袋麺詰め合わせセットなんじゃないかと思い始め、ぬか喜びした自分が恥ずかしくなった。
もしそうでも先生が私のためにくれた物ってだけで嬉しいけど、欲を言えば女の子扱いされたい。
「リクヒョン相変わらずクールだね〜」
「もう仲直りしたのか?」
悪戯っ子みたいな顔をして笑ってる先輩たち。
彼らが言っているのは数ヶ月前の話だ。
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