【短編版】女手一つで育て上げた娘が嫁に行き、あとはゆっくり余生を過ごそうと思っていたら、年下の公爵様に見初められました

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翌朝、私は村の中央広場にある井戸へ水汲みに出ると、これから繁華街へでも出掛けるのだろうか。平民ができる最大限のお洒落に身を包んだ二人の男女が水を汲む私の方へと歩み寄って来た。 「あら〜? 誰かと思えば先輩じゃないですかぁ!同じ村に住んでいながら久しぶりですね〜!それにしても先輩、見ない間にそんなにも老け込んじゃって。近くに寄るまで全く分かりませんでしたよ!やっぱり女手一つで子供を育てるって大変なんですね〜。あ、でも聞きましたよ〜?アリアちゃん結婚したらしいじゃないですかぁ!おめでとうございまぁす! これからは自分の幸せの為に恋人でも探されてはどうですかぁ?先輩、元は良いんだから今からでも女に磨きをかけ……いや、さすがに34歳にもなると手遅れかな。 ごめんなさい。大きなお世話でした」  相変わらずよく喋る女だ、と思う。そして、その隣りで気まずそうに俯いてる男は私の元夫のジョンだ。年は私と同い年。女はメアリー。私が以前働いていた職場の元同僚で、元夫が言う『真実の愛』の相手。  『すまない、エミリア。俺と別れてくれ。俺は真実の愛を見つけてしまった――』  バカか!お前は! そりゃ、お貴族様方の専売特許だ。『真実の愛』を平民ごときのお前が語るな!  という本音を仕舞つつ、私は彼の要求をすんなりと受け入れた。本音をぶち撒ける気力さえ起きない程に私は彼に呆れていたのだ。  30を迎え、更には家事、育児に追われ、私自身女としての魅力に陰りが出てきたと丁度思ってた時にジョンが見つけたという『真実の愛』。  要は若くて可愛い女に乗り換えたかっただけの事。離婚すれば私達親子が生活に困窮する事は分かっていただろうに。  それほど収入の多くないジョン。養育費の支払い義務すら果たそうとしなかった。  そんな男と結婚した私が言うのも何だが、メアリーはジョンのどこが良かったのだろうか。  昔から私と張り合おうとする癖があったメアリー。彼女としては、ジョンへの愛うんぬんというよりは、私の夫を横取りしたという事に意義を見出しているのだろうと思う。 「それでね、先輩。私達今度結婚式挙げるの。もちろん先輩にも出席して欲しいから招待状今度待ってきますね!では、私達はこれから繁華街へショッピングに行くので」  クソ男、クソ女。本当、お似合いだと思うわ。ご結婚おめでとう。と心の中で言いながら2人の背中を見送る。  とはいえ、あの女が見抜く通り、今の私の心は言い知れぬ喪失感と侘しさに苛まれている。  ――再婚……。  頭に浮かぶ二文字。 「いい歳したおばさんが何考えてんだ!バカ!」  娘が嫁いでいく前夜までは、やっと子育てから解放される。これからは一人ゆっくりと余生を過ごそうと、そう思っていたのだが、いざとなってみればこの有り様だ。  そんな虚しい事を考える自分を叱咤し、水汲みを終えた私は家の中へと入った。
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