223人が本棚に入れています
本棚に追加
第一話
「すまないエミリア。僕は君では無いところに真実の愛を見つけてしまったんだ」
夫ジョンは私の目をじっと見つめながらそう告げた。
「すまない」と言う割にはジョンのその顔に悪びれた様子は窺えない。むしろ堂々と落ち着いた感じで、無駄に精悍なその顔が無性に腹立たしく感じる。
そしてまさか、平民のジョンの口から『真実の愛』などという、まるでお貴族様が口にしそうな言葉が出た事に、よくぞまぁ、と思わず感心してしまった。
「で? その『真実の愛』とやらの相手が?」
私は目を細め、ジョンの隣りへと視線を移す。
「やだ、もう先輩! 顔が恐い、恐い!そんなんだからジョンに愛想つかされるんですよ? 笑って笑って? スマイルスマイル!」
そう言いながら口の両端をニッと上げる女――
最近の流行りの服を着こなし、肩に掛かるくらいの赤髪にぱっちりとした赤い瞳の美貌を持つ女。
そう。この女がジョンの言う『真実の愛』の相手、メアリーだ。そして、私の勤め先の後輩でもある。
最初のコメントを投稿しよう!