愛のスキマを歩く

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下駄箱を開けると靴の上に一通の手紙が供えられていた。諸橋結愛へ。差出人不明。 「結愛今度はラブレター?」 「だね」  話しかけてきたのはクラスメイトC。登校時間が同じため、ほぼ毎日ここで会う。 「いいなー。誰からだろうね。今開けてよ」 「開けるわけないじゃん。靴の上に置く時点で気持ち悪いし、自分の名前を書かないところで小心者だってよくわかる」 「うわ、毒舌。告られるだけいいじゃん」  本気でそう言っているのだろうか。差出人不明の手紙をカバンの中にしまう。告白されたとて私は誰とも付き合う気はない。少なくとも高校では。クラスメイトCとの会話も面倒になって、教室に向かった。だが、行き先が同じせいで別れることはなかった。 「ねぇ、今までどれぐらい告白されてきたの」 「数えてない」  感嘆のため息をこぼしてひとり言のように呟かれた。結愛は美人だからね、と。そんなのわかりきったことだ。私だって自分の容姿を武器にするために努力を続けている。校則のせいで最低限のおしゃれしか出来なくても、素材の良さが引き立つようにしている。安いシャンプーしか使えないような貧乏人とはかけているお金も違う。なにより、私が世界一可愛いと、そう唱えることが最大の魔法になる。 「ねぇ、毎日なにやってたらそんな綺麗になれるの」 「挙げたらきりがない」 「そんなたくさんのことをやってるってこと!?」  さすが美人は違うなと馬鹿にされる。こういうのは心から褒めて言っている人はいない。そんなに努力をしてなにになりたいの、私にはできないと嘲笑う声がする。  教室に入るなり、クラスメイトCはいつものグループに混ざって行った。やっと一人になれてスッキリする。一限目の準備をしながら、あの手紙をどこで捨てようかと考える。校内で捨てて誰かの目についても困る。かといって家で捨てるのは論外だ。もしも、母がこれを見つけてしまったら面倒なことになる。燃やしてしまうのが正解か。ライターがポケットに入っていないか確認する。潰れた空の煙草の箱が手に当たっただけで、ライターは見当たらなかった。仕方なく、一度家に持ち帰ることにした。
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