新生活15

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新生活15

 図書館の一角に、先生たちの使う資料庫があった。熱心な天城先生は、よく資料をコピーしに来ていた。私は推理小説がたくさん置いてあるのが嬉しくて、休み時間や放課後に、よく一人で図書館に行った。天城先生は「新作が入ったみたいだぞ」って教えてくれたり、「そろそろ誰か死んだか?」って聞いてきたりした。もちろん、死ぬっていうのは、本の中の事件のこと。  ある日、資料庫を覗くと、先生が山のような資料を前にため息をついていた。 「さすがに多いなー。仕方ねーか」  私たちの前では出ない、砕けた口調に胸がときめいた。 「先生、何か手伝おっか?」 「香原。まあ、正直助かるが……本はもう読み終わったのか?」 「ミステリーは逃げないよ。それより、先生が何だかかわいそうになっちゃって」  何気なく言った言葉に、彼は破顔した。 「ハハッ、そっか。じゃあ、これを教室に持ってくの手伝ってくれるか?」 「うん!」  並んで教室まで歩きながら、不思議な楽しさを感じていた。 「ミステリーは逃げない、か。名言だな」 「そう?」 「ああ。何か安心した」 「え?」  聞き返したのは、ちょうど教室の前。先生は、前の扉をガラッと開けて、私を先に通してくれた。 「とりあえず、一番前の席に置いてくれ」 「はーい。よいしょ、と」 「ご苦労さん」
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