42人が本棚に入れています
本棚に追加
新生活15
図書館の一角に、先生たちの使う資料庫があった。熱心な天城先生は、よく資料をコピーしに来ていた。私は推理小説がたくさん置いてあるのが嬉しくて、休み時間や放課後に、よく一人で図書館に行った。天城先生は「新作が入ったみたいだぞ」って教えてくれたり、「そろそろ誰か死んだか?」って聞いてきたりした。もちろん、死ぬっていうのは、本の中の事件のこと。
ある日、資料庫を覗くと、先生が山のような資料を前にため息をついていた。
「さすがに多いなー。仕方ねーか」
私たちの前では出ない、砕けた口調に胸がときめいた。
「先生、何か手伝おっか?」
「香原。まあ、正直助かるが……本はもう読み終わったのか?」
「ミステリーは逃げないよ。それより、先生が何だかかわいそうになっちゃって」
何気なく言った言葉に、彼は破顔した。
「ハハッ、そっか。じゃあ、これを教室に持ってくの手伝ってくれるか?」
「うん!」
並んで教室まで歩きながら、不思議な楽しさを感じていた。
「ミステリーは逃げない、か。名言だな」
「そう?」
「ああ。何か安心した」
「え?」
聞き返したのは、ちょうど教室の前。先生は、前の扉をガラッと開けて、私を先に通してくれた。
「とりあえず、一番前の席に置いてくれ」
「はーい。よいしょ、と」
「ご苦労さん」
最初のコメントを投稿しよう!