新生活2

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新生活2

 榊さんのおすすめの本を駅ビルで購入し、ついでにその周辺のカフェやかわいいお店もチェックしてきた。 「ふふっ。楽しくなりそう」  大学に入った時から住んでいるアパートに帰り着き、浮き浮きしてつい独り言を漏らす。このあと三月までは、残りの大学生活を大事に過ごしたい。ここのところバタバタしていて、気が付けば実家にも、もう半年以上帰ってない。長い間独身だったお母さんが寂しくないように、って前はけっこう帰ってたんだけど。そのお母さんが、去年から海外勤務になって、そのちょっと前から年下の彼氏と付き合ってるようなことを言ってた。充実している様子は、たまに話す電話から伝わってくる。今は空き家の実家は、近くに住む親戚のお姉ちゃんが、時々、空気の入れ替えに行ってくれているはず。  そんなこんなで足が遠のいていた実家に、私は四月からまた住むつもりでいる。 「引っ越しの準備、今から始めた方がいいかなあ」  家賃の割には広めの部屋は、大学生活の間にいろんな物が増えている。直前になってからだと慌ててしまいそう。このアパートから会社は遠くて、実家からなら一時間足らずで通勤できる。 「そうだ、メールしとこ」  時差を考えると、お母さんはまだ寝てるかもしれない。会社が正式決定したことを書き、引っ越しのことも書いた。 『アパート引き払って家から通うつもりなんだけど、いいよね? お母さんが帰国してる時は二人でおいしいもの食べに行こうね!』  返信はすぐにあった。 『就職おめでとう! 頑張ったね。ご飯は彼も一緒でもいいかな?』 「うまくいってるんだー。よかった」  もちろん!と返した後、コーヒーを飲みながら、ため込んだ画像を何となく眺めた。遡っていき、ふと手が止まる。これまで付き合った、三人の男性の写真。お守りみたいに、それぞれ一枚だけ画像にしてスマホに入れてた。思い出すと切なくて、泣きそうな時もあった。でも社会人になればきっともう気にならなくなる。超イケメンの榊さんと毎日会えるしね! 「バイバイ、みんな。ありがとう」  私は三枚の画像を、卒業式みたいな気持ちで削除した。
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