新生活3

1/1
前へ
/38ページ
次へ

新生活3

 引っ越しは、業者さんがどこも混んでて、ほんとにギリギリになった。入社日の前日。当日じゃないだけマシかも……と思いながら、荷物より少し遅れて実家に到着した。 「すみません、遅くな……って」  業者さんの車まで謝りながら走っていく途中、違和感を覚えて声が小さくなった。ありがとうございましたー、って誰かに言ってる? 大きな車があって、まだ見えないけど。ひょっとしてお母さん、帰ってきてるのかな。 「御苦労様でした」  ……え? 男の人。っていうか、知ってる声。この五年間、何度も夢に出てきては私を甘く呼んだ――。  業者さんが私に気付いて、ぺこっとお辞儀をした。私もお辞儀を返した。車が走り去るのを呆然として見送り、できることならいつまでもそうしていたかった。背中に、強烈な視線を感じるから。  五分経過。いつまでもここに立ってるわけにはいかない。深呼吸をして振り向いた。 「お帰り、衣純」  高校の時に付き合っていた担任の先生が、私の家の前に立っていた。「あらご主人、どうも」と声をかける近所のおばさんに、会釈なんかして。 「大変ねぇ、奥さんの留守にお一人で。あら、衣純ちゃん! 帰ってきてたのね。元気?」 「ええ、まあ……」  呆然として曖昧に返した私に、おばさんは追い打ちをかけた。 「いいわね~、こんなイケメンがお義父さんで! 勉さんも素敵だったし、お母さん見る目あるわよねぇ」 「お……」  とう、さん?   単なる彼氏じゃなくて? 再婚したの? 天城恭一郎っていうやたら名前がかっこいいこの人と?   頭の中が沸騰してきた。何? 何で?  聞いてません!
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加