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新生活4
「お母さん、これどういうこと!?」
もう時差なんか構っていられなかった。玄関を入るなり、電話した。
『あー、今日引っ越しだったよね。お疲れ様』
「私の知らない間に終わってるっておかしいでしょっ。しかも、しかも……空き家状態じゃないしっ」
今日の午後いっぱいかける覚悟をしていた段ボールの山は、庭にも玄関にもなかった。「自分の部屋」「物置」「押し入れ」など、行き先をサインペンで書き殴っておいたから、それぞれの場所へ業者さんが運んでくれていた。先生――恭一郎の指示で。
『メールに書いたでしょ、彼も一緒だって』
「いやいやいや、それでこの状況分かる人はいないからっ。大体あれは、帰ってきた時に食事にでも行こうって、それに対するお母さんの返事じゃないっ。ここに住んでる説明にはなってないよ!」
再婚のことも問い詰めたいのに、ブレーキがかかって言えない。怖い。先生は、そばで腕組みして、うんうんって頷いてる。お母さんのマイペースぶりをよく知っているみたい。こんな状況なのに笑いそうになって、同時に、胸がチクッと痛んだ。
『ごめんね、びっくりさせて。でもあんたの高校の時の先生で、人柄も分かってたから、話がトントン拍子で進んでね。じゃあ、お母さんもうちょっと寝たいから。またね~』
電話は一方的に切れた。我が親ながら自由すぎる。長身の先生を見上げて、言葉を探した。
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