新生活5

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新生活5

「荷物の整理、俺も手伝うから」 「そうじゃなくてさ……先生、いつからここに住んでるの?」 「去年の四月からだ。春休みに引っ越してきた」 「そんなに……」  お母さんが海外勤務に変わったのは、一昨年の末。私が最後にここに帰ってきたのは大学三年の春休みだった。親戚のお姉ちゃんに、たまにはお茶でもしようよって誘われて。あの時は、こんな話、全然……。 「どうした?」 「ん……何でもない」 「何でもないって顔じゃない。俺をごまかせるわけないだろ」  だって、こんなの言えないよ。言えない……。 「いーずーみ。ほら、俺相手になに遠慮してんだ。言っちまえよ」  腰を屈めて目を合わせてくる。ん?って優しい顔で促されたら、我慢できなかった。 「お母さん、アメリカ行くちょっと前に言ってたの……『いい人が見つかったから心配しないで』って」 「うん」 『若くて素敵な人よ』って……すごく楽しそうな声で」 「うん」 「だから、彼氏できたんだな、って嬉しかった。お父さんが死んでからそういう人いないみたいで、私のこと一生懸命っ……だから、だから……」  でもそれが恭一郎だなんて、しかもこんな関係になってるなんて、どうしたらいいのかわかんないよ……。
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