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新生活6
「なるほど」
彼は、私の頭をポンポンって手のひらで軽く叩いた。
「補足説明してやるから、よく聞け。俺たちの結婚はただの契約だ。お前のお母さんとの間に、お前としてたようなあんなことやこんなことは、一切ない。今後もない。お互い何の感情もない」
「え……意味わかんない」
契約? っていうか、あんなことやこんなことって。頬が熱くなってくる。先生は私の唇を親指でなぞった。
「具体的に思い出させた方がいいか?」
クラっときた自分に呆れる。この人は元カレでしょ、元カレ! それ以上でもそれ以下でもないのっ。義父だなんて聞いちゃったら、なおさらだよ……。
スッと体を引くと、苦笑して髪を撫でてきた。変わらない手つきに胸が苦しくなる。
「先生、言ってること矛盾してるよ。だって、うちのお母さんの性格はよく知ってるって顔で、さっき頷いてたじゃない……」
私も、言ってること無茶苦茶。どうだっていいじゃない、こんなこと。
「衣純がよく言ってたんだよ。うちの母親、超マイペースで!ってな。それをさっき思い出して、確かになあって思ったんだ」
「それだけ?」
「それだけ」
「……そっか」
喉に詰まった変な塊みたいなものが、小さくなっていく。
「機嫌直せ。オムライス作ってやるから」
「……端っこが焦げたやつ? 少しは上達した?」
「するわけないだろ。あれから誰にも作ってない」
「そ、そうなんだ。じゃあ私、部屋の片付けあるからっ」
これ以上会話を続けていたらやばい気がして、その場を逃げ出した。
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