新生活8

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新生活8

「それで? さっきの、全然説明になってなかったんだけど」  いただきます、と手を合わせてオムライスを味わいながら、向かい側に座った先生にまじめに聞いた。状況が分からないのは落ち着かない。 「先生とお母さんの関係っていうか、そういう関係じゃないのは分かった。なら、何でそんな、自分を縛り付けるようなことするの? 先生にとって何かメリットあるわけ?」  自分の分にはまだ手をつけず、頬杖をついて私を見ている。そんなところも昔と同じで、ますます落ち着かない。 「メリットねぇ。こうやって、元気なかわいい女の子と食事ができる」 「ふざけないで」 「じゃあ……」 「次ごまかしたら、もう口きかないんだから」  付き合っていた頃のような、遠慮のない口調になってしまう。昔は彼氏、今は義父。どっちが近いんだろう。お、と軽く目を見開いてクスッと笑う先生は、どっちでも同じみたい。私と七歳違いだから、今年で三十歳。生徒なんてみんなすごく子供に見えるんだろうな。いただきます、と言って食べ始める姿。左利きで、私を抱き寄せる時も左手で……って、何考えてんのよっ。 「縛り付ける、か」  ぼそっと呟いた。 「だってそうじゃない……。正式にっていうか法律上の結婚、しちゃったんでしょ? この家、古いし、場所は駅近だけど売ってもそんなにお金にならないだろうし。騙して財産を掠め取ろうなんて、あのお母さん相手に、まず考えないだろうし」 「相変わらずお前は……刑事ものばっかり観てるだろ。本も」 「いーじゃない、ドラマが毎シーズン、刑事ものばっかりなんだもん。自然にそうなるでしょ。本は、最近は少しはミステリーじゃないのも読んでるんだから」 「そうか。おすすめの新作ミステリーを教えてやろうと思ったんだけどな。興味ないか」 「え、何? どんなの?」 「ハハッ、食いついてきた」  釣られて私も笑ってしまう。取り繕わなくていい関係。元カレだし義父だし。何を言っても大丈夫な人って、滅多にいない。
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