新生活9

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新生活9

 お父さんが死んで、一人で頑張ってるお母さんを見てたら、心配かけないようにって、私も一人で頑張っちゃってた。高二で担任になった天城恭一郎は、そんな私の休憩場所みたいな存在だった。話が弾んで、私のことをよく見ててくれて、「何かあったら頼れよ」って言ってくれた。二学期の終わりに告白して、バレンタインには二人でベッドでチョコを食べた。あのチョコの味、まだ覚えてる。 「俺の住んでたアパート、覚えてるか」 「あ、うん」  ドキッとした。正にそのアパートでの日々を思い出していたから。 「老朽化してたってのと、大家さんが代替わりしてな。ゆくゆくは駐車場にするっていうから、次に住む場所を探してたんだ」 「あ……まじめな答え?」 「娘に口もきいてもらえない哀れな親父にはなりたくないからな」 「娘ねぇ……それで?」 「スーパーでお前のお母さんとばったり会った」 「へっ」 「家からはちょっと遠いけど、娘に教えられて時々来るんです、って言ってたぞ。ちなみに鮮魚の特売日だった」 「あー。あそこ、お魚おいしいもんね……」  週の半分は和食の先生に、あの頃いろんな魚料理を教えてもらった。そのうちに、泊まりに行く時に、しっかり選んでいいものを買っていくのが、私の宿題みたいになって。「うん、美味そうだ。合格」ってキスしてくれるの……って、思い出しちゃ駄目だって!
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