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「けどよ!こいつめちゃくちゃうるさいぜ。弱そうだしよ」
「こら。失礼なこと言わないの。この子は……えーっと……」
藤咲さんが僕のことを紹介しようとして思案顔になる。それはそうだ。僕達は今さっき出会ったばかりなんだから。そういえばまだ名乗っていなかった気がする。僕は慌てて自己紹介をした。
「坂ノ上小学校、5年2組の水上優斗です!」
「そう。私が通う予定の学校の子なの。だからそういうこと言っちゃ駄目だからね!」
そう言って藤咲さんがノアと呼ばれた猫のマスコットを人差し指で小突く。
「いてっ!何すんだよ!」
テーブルの上で尻もちをついて、頭を押さえる様子を見て僕は思わず笑ってしまった。
「水上君、ごめんね。これから怪我の消毒するから……」
そう言って藤咲さんが救急箱から消毒液とガーゼを取り出す。
「ありがとう。僕、自分でやるから大丈夫だよ!」
僕は藤咲さんから消毒液とガーゼを受け取った。ずっと藤咲さんに甘える訳にはいかない。道でずっこけるというカッコ悪い光景を見せてしまったばかりなんだから。
「いててて……」
僕は悲鳴を上げながら消毒する。その様子を、藤咲さんが顔を歪ませて見ていた。まるで自分が怪我をして消毒してるみたいな表情だ。
辛いなら見ていなくても大丈夫なのに。多分、藤咲さんは僕が想像している以上に優しいんだと思う。
「はい……これ。絆創膏」
「ありがとう!」
藤咲さんは恐る恐る大きな絆創膏を二つ手渡してくれた。僕は敢えて元気な声でお礼を言う。ここで弱々しく返事をしたのなら余計に心配させてしまう。えーと……何かくすっと笑えて楽しい話題はないかな。
「そうだ。このマスコットって藤咲さんの手作り?電池で動いてるの?」
両ひざに絆創膏を貼り終えた後、僕はこのノアと呼ばれたマスコットについて詳しく聞くことにした。
「俺様はマスコットじゃない!マホの相棒!ノアっていう立派な名前があんだよ!」
再びテーブルの上でノアが両手を挙げて怒る。僕の質問に藤咲さんは少し考え込むような素振りをみせると口を開いた。
「ううん。ノアは電池で動いてるわけじゃないよ。魔法羊毛フェルトで作った子なの」
「魔法……『羊毛フェルト』?」
「私が作ってる作品はね、普通のお店のものとはちょっと違うんだ。全部不思議な力が宿ってるの。良かったら、水上君も作ってみる?簡単なものだったらすぐに作れるよ」
そう言って藤咲さんが微笑むから僕は断ることができなかった。外は土砂降りの雨だし。ここで雨が弱まるまで時間をつぶすのも悪くないかもと思った。
「うん!作ってみる!」
僕の心はやったことのないことをやる、ドキドキとワクワクでいっぱいになった。
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