2.プラスにしてくれるプラバンヘアゴム

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「じゃあ、今度の土曜日に」 「楽しみにしてるねー」 「またねー!」  放課後。藤咲さんの周りに人だかりがなくなる。僕はチャンスだと思って巧を置いて藤咲さんの元に近づいた時だった。 「木村さん」  帰る準備をしていた木村さんに藤咲さんが声を掛けたのだ。木村さんは驚きのあまり手にしていた教科書を床に落としてしまう。  僕もこの展開に驚いて立ち止まってしまった。僕の後ろにいた巧は何事かと首を傾げている。 「良かったら今から私のお店、見に来ない?」 「え……。あの……えっと……」  木村さんは教科書を拾いながら返答に迷っていた。 「水上君も来るし。どう?なんなら火石君も」  急に僕と巧に視線が移り、僕は瞬きを繰り返す。思いがけない提案に喜んで手を挙げた。 「行く!」 「えー?俺も?雑貨とか興味ねえけどいいの?」  失礼なことを言う巧のお腹に僕は(ひじ)を入れる。藤咲さんは嫌な顔ひとつせずに笑顔を浮かべた。 「いいよ。なんならジュース飲んでるだけでもいいから」 「そんなら行くわ」  巧の単純な思考に呆れた。そんな僕らのやり取りに気が(ゆる)んだのか。木村さんが頬を赤くしながら声を上げた。 「あのっ!そしたら……私も。私も……行く!」  その様子を見て藤咲さんが優しく微笑む。まるでその返答を待っていたかのようだ。 「それじゃあ、皆で一緒に行こっか」 「水上君、怪我は大丈夫?」  通学路を4人で並んで歩く。右隣を歩く藤咲さんが心配そうに僕に声を掛けてくれた。 「うん。大丈夫だよ!それにしても藤咲さん、すごい人気だったよね。全然話しかけられなかったよ」  僕がげっそりとした表情を浮かべると藤咲さんは困ったような表情をする。 「最初だけだと思うよ」  藤咲さんはなんて大人な考え方をするんだろう。僕が転校生で、あんなに人に囲まれたら人気者だと勘違いするのは間違いない。きっと調子に乗ると思う。 「あの……どうして私を誘ってくれたの?」  藤咲さんの右隣にいた木村さんが地面に視線を落としながら聞く。 「お店、(のぞ)いてたでしょう?興味あるのかなあと思って。それに話しかけようとしてくれてたから」  相変わらず藤咲さんはちゃんと周りを見ている。木村さんが話しかけたいと思っていたのもお見通しだったらしい。  やっぱり藤咲さんは魔法使いなのだと僕は確信する。 「うん。話しかけたかったんだけど……。勇気がでなくて。……ありがとう」  木村さんがやっと笑顔を見せる。少しぎこちなかったけど、僕は嬉しい気持ちになった。 「なんだよ勇気って。別に人に話しかけんのに勇気も何も必要ねえだろ」  僕の左側にいた巧が言う。その言葉に木村さんは怯えたような表情に戻ってしまった。 「あのねー……。人には色々事情があんだよ。全人類、巧みたいな思考だと思ったら大違いだから!」 「そうなのか?」  僕らの馬鹿みたいな会話に藤咲さんがくすっと笑ってくれる。木村さんはまだ顔をこわばらせていた。僕達と仲良くなるにはまだ時間がかかるかもしれない。  会話をしているうちに藤咲さんの家、『ウィステリアショップ』に辿り着く。  さて。今日は何を作るんだろう?  
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