2.プラスにしてくれるプラバンヘアゴム

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「すっげえ!おしゃれな家だなー」 「本当に……。えっと……日本じゃないみたいね」  アーチ型の門扉(もんぴ)を通り抜け、玄関口までやってきた巧と木村さんが興奮したように話す。 「でしょう。そうでしょう」  僕が腕組をして得意気にしていると、おでこに柔らかい感触(かんしょく)がぶつかる。 「調子に乗るなよ!ひよこ野郎!」  生意気な声とこのもふっとした物体は……。 「ノア!」  僕と藤咲さんは同時に声を上げていた。いつの間にか前を行く藤咲さんのランドセルから逃げ出したらしい。僕のおでこを蹴り飛ばした後で、華麗(かれい)に廊下に着地する。頭にはずれたボールチェーンがくっついているのが見えた。  どうやら『ひよこ野郎』とは僕のことらしい。確かにひよこは作ったけど、それにしてもひどいあだ名だ。 「きゃ!マスコットが……!マスコットが動いてる!」 「何だあ?こいつ、動くおもちゃだったのか?」  木村さんは怖がってドアの方に下がってしまう。一方、巧は冷静だった。 「まーた変なの連れてきたのか、マホ。暗そうな眼鏡に……でかいやつ」  冴えわたる悪口に僕は呆れる。 「またお客さんに失礼なこと言って!大人しくしててよ」  藤咲さんがため息を吐くのもお構いなしでノアはふんぞり返って続けた。 「いいだろ!これぐらい。学校にいる間は動けなくって疲れたんだよ!色んなとこ触られるしよー。最悪!」 「ねえ……。そのマスコットって、お化け?何かが……()りついてるの?」  木村さんが指を差して震えている。 「驚かせてごめんね。こんなんだけど悪い子じゃないの。実はこのお店にある物はね……全部不思議な力が込められてるんだ。怖い力じゃないから安心して」  藤咲さんがいたずらっ子のように笑う。木村さんの震えが止まった。 「不思議な……力?」 「へー。じゃあ別に電池で動いてるってわけでもねえのか」  巧が片手でノアを掴むとノアの足裏を確認する。 「何すんだ!このデカ野郎!離せ―っ!」  ノアが巧の手の中で足をばたつかせる。いつもいいようにやられていた僕なので少しいい気味だなと思った。 「ノアはしばらく火石君のところで大人しくしてなさい」 「はあー?それはないぜ。マホ……」  巧の手の中で大人しくなったノアに安心したのか木村さんが顔を覗かせる。 「えっと……不思議な力ってよく分かんない。けど、藤咲さんが言うなら怖くない……かも。よく見たらかわいいし……」  安心した木村さんの姿を見て僕もほっとした。 「……!す……すごい!」  おしゃれで落ち着いた店内を見て木村さんは両手を合わせながら歓声をあげる。あの巧も興味津々で店内を見渡していた。 「もっとピンクとか女子が好きそーな感じなのかと思ってたけど……。案外誰でも入れそうな感じだな」  ハンドメイドに興味がなさそうな巧の良い反応に僕も自然と笑顔になる。 「お店はお休みの日にやってるんだ。今度の土曜日、クラスの子達が来るから作品を増やしておこうと思って」 「え?」  僕と木村さんの声が重なる。商品を作るなんて……レベルが高くないかな? 「大丈夫。難しい事じゃないから。ハンドメイドで大切なのはね、失敗しないで完璧なものを作るってことじゃないよ。……喜んでくれる人を想像しながら作ることだから」  藤咲さんは後ろで手を組んで、僕達にふんわりと微笑んだ。
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