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エピローグ
人ではない者が住んでいた時代。
大陸、海、天上界、地界……あらゆる場所にあらゆる生き物がいた。人間、人魚、精霊、龍、ピグル小人、魔物。区別すら難しい程の種が世界のあちこちでそれぞれの生活をしていた。
世に生まれしものは全て、命尽きるまで精一杯生きようとするものだ。例え、どんな状況下にあったとしても。感情を持つものであれば尚更だ。自らの描く理想の生活を求め、時に笑い、時に涙し、そうして日々、過ごしてゆく。歳がくれば伴侶を迎え、新しい命を生み出したりもする。それが、世の生業なのだから。
「ちょっと、アーリシアンっ。そんな作り方では駄目ですわっ」
メイシアがピシャリ、と言い放つ。
「ええー? どうしてぇ?」
アーリシアンは少々不満げだ。
「メイシアちゃんが正しいっ」
相変わらず、マリムはメイシアの後を追い掛け回しては迷惑がられていた。
「ああっ、うるさい……、」
毎度の事ながら頭を抱えるラセル。
「いつ来てもここは賑やかですねぇ」
セイ・ルーは至って暢気だ。
「……って! お前がここに来るからだろうがっ? 村に帰っておとなしくしてろよ!」
「だって、ラセル、ピグルの村に帰るとメイシアの一族が私に迫ってくるんですよぉっ。早く婚儀を挙げろ、とか早く子を成せ、とか」
「とっとと結婚しろよ」
冷たく言い放つ。
「無茶言わないでくださいっ。メイシアとの契約はアクシデントなんですからっ」
「ふぅ~ん」
ニヤニヤ笑いでセイ・ルーを見つめるラセル。セイ・ルーはムッと口をへの字に曲げ、言い返した。
「ラセルだって成り行きで結婚してるじゃないですかっ。人の事言えませんっ」
「ああ、何とでもどうぞ。成り行きでもなんでも、俺は満足してるからいいんだ」
「うー、」
半分ノロケのような台詞に、セイ・ルーが唸った。
「さぁっ、出来ましたわっ」
メイシアの合図と共に、次々に料理が運ばれて来る。こうして大勢で食事をすることにも最近は慣れ初めていた。
(不思議なもんだな)
ちら、と横を見ればピグルのマリムとメイシアがいるのだ。魔物にとっては単なる餌だ。そのピグルと同じ食卓を囲んでいるのだから。
「ラセル、これは私が作ったのよっ!」
嬉々として皿を差し出すアーリシアン。
「……これ、なんだ?」
眉をひそめ、皿の上に乗っている物を指す。メイシアが視線を外した。故意に、である。
「食べさせてあげるっ」
スプーンでドロドロとした液体を掬い、ラセルの口元に突き出す。鼻をつく異臭。
「無理だ」
断ってみた。
「あーんっ」
お構いなしに口の中に突っ込まれた。
「ううっ、」
それは、有り得ない味がした……。
「ラセル? ラセル! どうしたのっ? ねえってばーっ」
遠ざかる意識の中、アーリシアンの声だけが耳に響いていた。
(……俺はやっぱり間違った道を選んだのかもしれない……)
ふと、そんなことを考えてみるも、今は昔の話である……。
~Fin~
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