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そこに降り立ったとき、彌生は何かいやな気持ちを感じていた。
胸のあたりが苦しくなって、息が詰まるような、いやな気持ち。
学舎はすぐ目の前にあるのに、彌生はそこに入ることができないでいた。
重力が、彌生の足をその場に押さえつけているようだ。
一歩を踏み出すことさえ難しく思えた。
しかし。
「入学式、楽しみだね!」
「まあ、そうだな」
そう言って、彌生を軽々と通り越して行く二人の男子生徒がいた。
彼らは希望に満ちた目をして、学舎に確かな足取りで向かっていた。
これから始まる生活に、さぞかし愉快な期待を寄せているのであろう。
楽しげな彼らを見ているうちに、彌生は何だか大丈夫な気がしてきて、自然と足は前に進んでいた。
彌生は、先ほどまでのいやな気持ちが嘘のように晴れ、彼らを追いかけるようにして学舎へと入ることができた。
これから三年を過ごすことになる、私立望月学園へと。
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