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教室に着くと、男は彌生に、入れと顎で指示した。
教室は、扉が閉まっているにもかかわらず、騒がしい。楽しそうな声が響いていた。
それを認識した瞬間。
彌生は動きを固くした。
またあのいやな感じが蘇ってきた。
足がすくんで、動けない。
男は彌生の様子をじっと見ると、ため息をついて彌生の腕を掴んだ。
そして問答無用で引き戸を開け放ち、彌生を中に引き入れてしまった。
彌生は心の準備をする間もなく、教室に入ったので慌てて男を見た。
けれど男の表情はとくに何も語っておらず、何を考えているのか推測することはできなかった。
教室に入って、はたと左を見れば、クラス中の視線がこちらに、ひいては男に向いていることに気がつく。しまった。
男に連れられているときには気が付かなかったが、彌生が教室に入る最後の者であったかもしれない。
注目されている。どうしよう。
そう思っていると、教室のもう一方の引き戸が音を立てて開かれた。
現れたのは、背の高い、明るい茶髪を持った男子生徒だった。
彌生に向いていた生徒の視線が、そちらに移る。
彌生はホッとして、男を見た。
男は彌生を一瞥して、それから男子生徒を見る。それから口を開いた。
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