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「きゃあ!」
と不意に叫び声が聞こえた。
隣を見ると、中村夢子ちゃんが、便座に腰を掛けたまま、こちらを睨んでいる。
花の念により、トイレとトイレの壁は消え、ドアも消え去ってしまっていた。トイレットペーパーのホルダーだけが、宙に浮かんでいるような状態だ。
「先生!」
夢子ちゃんはトイレに腰かけたまま、外を通りかかった内藤順子先生に向かって叫んだ。
「黒崎さんが、また変なこと考えてます!」
内藤先生は、トイレの入り口に立ち止まり、
「黒崎―。変なことばっかり考えちゃだめだぞ。時と場所を考えなさい。」
と注意して去っていった。
「はあい……。」
花が渋々返事をすると、トイレの個室の壁は、元通りになった。
「もう!」
と言いながら、夢子ちゃんが足早に出ていく音が聞こえる。
花は考えるひとのポーズで便座に座ったまま、なんだかんだで、ここが一番考え事しやすいんだよなあ、と思っていた。
〈おしまい〉
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