混沌の海へ

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 猫と犬がどう違うかを、言語的に説明するのは意外に難しい。  身体的特徴やら、その能力、果ては系譜までさかのぼって説明を試みようとしても、なかなかうまくいかない。実にいろいろな猫がいて、いろいろな犬がいるのだ。  それでも目の前の一匹を、犬か猫か言い当てるのは、びっくりするほど簡単なことだ。間違うことは、ほぼないだろう。 花はキリスト教徒じゃないけれど、アダムとイブの食べた知恵の実は、人間を混沌の世界から掬い取った。それが「罪」だというのなら、文明は永遠に生まれなかったに違いない。  ここまで考えてみて、花はいっそのこと、世界を混沌の海に沈めてみたくなった。  すべての境界線が失われた世界。それはどんな世界なのだろう。きっと、念じさえすれば、できるはずだ。
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