出会いの街

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出会いの街

これは私が、『今の私』になる前の一番忘れられない出来事の話。 十五歳の頃、お父さんの転勤で東京から外れた田舎にある、自然が豊かな小さな街に引っ越した。夏の終わりのある日、私は引っ越し先の街を散策していた。 古びた商店街を歩いていると、一軒の小さな古びた本屋が目に入った。 扉を開けると、店内には独特の古本の匂いが漂っていた。 「いらっしゃいませ。」 声に振り返ると、そこには年配の店主が立っていた。私は軽く会釈し、店内を見回した。漫画や小説、絵本がたくさん並んでいる。 すると、ある棚の前で一人の男の子が本を読んでいるのを見つけた。その子の姿に興味を惹かれた私は、少しずつその男の子に近づいた。 「ねぇ、何読んでるの?」 本を読んでいた男の子に声をかけると、彼は驚いた表情で顔を上げた。 「あ、ごめんね、驚かせちゃって。」 「いや、大丈夫。『この思いを君に届けられたら』を読んでたんだ。えっと、君は?」 「あ、私は美波(みなみ)。引っ越してきたばかりなんだ。貴方は?」 「俺は(けん)。ここの街に住んでるよ。」 これが兼と私の出会い。その日から、私と兼は頻繁に本屋で顔を合わせるようになった。共に本を読んだり、街を探検したり、一緒に公園で遊んだり、秘密基地を作ったり。 私達はあっという間に仲良くなって、毎日遊ぶことが多かった。家が近かったから学校まで一緒に登校することもある。
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