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悲劇の再会
再会の日、空は青く澄み渡り、夏の暑い風が街を吹き抜けていた。私は朝早くから準備を整え、心を躍らせながら指定された場所へと急いで行った。私の心の中には、ずっと温めてきた兼との再会への期待と喜びが溢れていた。
「今日こそ、兼に会えるんだ…」
その思いが胸を締め付け、足取りを軽くしていた。だけど、駅へ向かう途中、スマートフォンが鳴り響いた。見知らぬ番号からの着信に、私は一瞬戸惑ったが、迷わず電話を取った。
「もしもし…美波さんですか?」
受話器越しに聞こえてきたのは、落ち着いた声の男性だった。私は一瞬、心臓が止まるような予感に襲われた。
「はい、そうですけど…」
「こちら、糸町警察署の者です。」
糸町は私が引っ越した街、兼が住んでいる街。
「大変申し上げにくいのですが…兼さんが交通事故に遭われました。病院に搬送されましたが、残念ながらお亡くなりになりました」
その言葉が耳に届いた瞬間、私の頭は真っ白になり、手にしていたスマートフォンが震えるほどの衝撃を受けた。足元がふらつき、視界が揺らいでいく。
「兼が…?嘘…でしょ…」
震える声で呟いたが、返ってくるのは無情な沈黙だけだった。私の心は一瞬にして打ち砕かれ、どうしていいかわからない混乱に襲われた。スマートフォンを握る手が力を失い、今にも落としてしまいそうだった。
「病院…病院に行かなきゃ…」
かすかな意識の中でそう考え、足を引きずるようにして病院へと向かった。時間が止まってしまったかのように、世界が無音に包まれたように感じた。私の中で、兼と再会するはずだったその瞬間が、まるで夢のように遠ざかっていった。
病院に到着すると、無我夢中で受付に駆け寄り、兼のことを尋ねた。看護師が無言で私を案内し、遺体安置室へと向かう途中、心は何度も崩れそうになった。それでも、私は一歩一歩前へ進んだ。
やがて、看護師がそっと扉を開け、中へと導いた。そこに横たわっていたのは、もう動かない兼の体だった。彼の顔は静かで、まるで眠っているかのように穏やかだったが、彼の体温はすでに失われていた。
私はその姿を見た瞬間、足元が崩れ落ちるように膝をつき、その場で泣き崩れた。私の心は、悲しみと絶望で張り裂けそうになっていた。
「兼…どうして…?あと一回だけで良かったのに…」
声は震え、涙が止めどなく流れ落ちた。再会を果たせるはずだったその日が、永遠の別れの日になってしまったという現実が、私を深く打ちのめした。
「一回も会うことができなかった…」
嗚咽を漏らしながら、兼の冷たくなった手を握りしめた。その手の温もりを感じることはもう二度とできない。
その事実が彼女の胸に重くのしかかった。すべての感情が交錯し、悲しみと後悔、そして愛しさが心を激しく揺さぶった。
「兼...兼...兼」
兼があの時くれた、お揃いのキーホルダーを私は手に握った。兼の手元を見ると、同じキーホルダーを握っているのを見た。
「兼さん、ずっとこのキーホルダーを握っていたらしいです。警察の方が取ろうとしても、取れないという」
それを聞いた時、私はわかった。彼は私のことを最後まで...考えてたんだって。
私はその場で泣き続け、心の中で何度も兼の名前を呼び続けた。彼との再会を果たすことができなかった無念と、その愛がもう二度と届かないという喪失感に、私はただ泣き続けるしかなかった。
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